藤舎の紋 藤舎名玄TOSHA MEIGEN ― 詞章ライブラリーへ戻る
荻江

道中双六だうちゆうすごろく

荻江節  本名題『恋文字道中双六』  作詞者・作曲者・初演年不詳

道中双六 絵双六と賽子
絵双六と賽子

東海道五十三次を居ながらに見せる、という趣向の掛け合いの曲。日本橋から真一文字に、品川の海晏寺、川崎の茶飯、神奈川・程ヶ谷・戸塚・藤沢と宿の名を恋のことばと地口に詠み込みながら下ってゆく。小田原と思い焦がれる胸の火に沸く箱根の湯では里の麦つき歌、鞠子ではてまり歌と、俗謡をそのまま取り込み、島田・金谷・御油・赤坂、鳴海の絞りを過ぎて、鳥は鳳凰、花はみ吉野、と問答尽くし。宮の大根、桑名の蛤の蜃気楼、石薬師ほど固くても水口、大津、粟田口で京に着き、折り返して花のお江戸の真ん中へ。果報は寝て待つ、居ながら歩む膝栗毛——道中双六と口舌さわやかに納める。

あらすじ

これこれ、ご覧ぜ、見さしゃんせ。これぞ五十三次を、居ながらに見せる伊達風を。粋な姿のしどけなく。真一文字に日本橋より、真っ直ぐに京橋、中橋、お万が紅。紅白粉も手に付かず、辛気辛苦の新橋に、品川作る水鏡。紅葉見ようなら海晏寺、木魚の音は、南無阿弥豆腐、南無阿弥豆腐。瓢箪あれど酒はなし。酒屋はあっても花はなし。何を食うやの顔の皺、腹も皺々、篠竹の杖がいりそうな夜明け方。お茶参れ。茶の木のきよひよんで、われらがためには釈迦の弟子、げに品川の大仏。仏ももとは凡夫にて。おじゃれおじゃれが弾く三味線は。弾く清掻は、刳り歯の下駄を運ぶ八文字。馴れた廓も早や昔。それ大名のお通りじゃ。行列揃えて、どいやさ。徒歩の若党や、お六尺。踏む七草は。跡からしゃぐしゃぐ、お葛籠馬。小室節を張り上げて。千石取るとも馬方いやよ。ほてっ腹めと鈴振り掛ける鈴ヶ森。振り放け見れば六郷の渡し場に、早や月の駒。東下りにあらねども、その。業平さんの歌枕。小枕持たぬ草枕、出馬の声に起こされて、見やる向こうは安房上総。沖漕ぐ艪拍子、さっさっさ。駒も勇めば、はいしい、どう。まず早咲きに梅の木や、和中散。三里は一服の煙草を呑む間に行き過ぎて。火縄振る振る、古川薬師も見えるぞえ。さても喋るは品もの、めかの、川崎の名物の茶飯。稀なる女馬子、定めて色があるであろう。わたしの思うその人は。その色は。さあ、その色は。わたしの胸の数々は、仮名で——言われぬ神奈川の。急ぐ程ヶ谷、戸塚はと、足ももつれる藤沢の。平塚の間も、忘られぬ。その恋人に小田原と、思い焦がれる胸の火に、沸いて流れる箱根の湯。おお、その湯めぐりの慰みに、里の女が麦搗き時に歌う小歌の声冴えて。縁は切れると思うな、女子。水に浮草、根は切れぬ、しょんがいな。わしはこの町の軒端の雀。来ては鳴いたり泣かせたり、しょんがいな。明日はお発ちか、お名残惜しや。せめて仙石屋の曲がりまで、しょんがいな。花の姿を、見しま——三島より深くはまった沼津の宿。富士の煙の空に消え、行方も知らぬ恋人は。何とか言うの、由比の浜伝い、宇津の山辺の十団子、お銭尽く尽く。つく手鞠——鞠子の。一つとや、一夜明ければ賑やかで、賑やかで。飾り立てたる松飾り、松飾り。二つとや、二葉の松は色ようで、色ようで。三蓋松は——どもへどもへ。三つとや、みんなの子供衆は楽遊び、楽遊び。穴一、駒取り、羽根をつく、羽根をつく。四つとや、吉原女郎衆が手鞠つく、手鞠つく。手鞠の歌こそ面白や、面白や。手鞠つく右の腕を打ち担ぐ。そりゃ何じゃえ。岡部の宿や藤枝の、そもじに命、投げ島田。金谷に御油、赤坂。問いましょ、問いましょ。聞きましょ、聞きましょ。女郎は。おじゃれ。飛脚は。早立ち。鳴海は。絞り。問いましょ、問いましょ。聞きましょ、聞きましょ。鳥は。鳳凰。花は。み吉野。月は。更科。薄は。小ぐら野。牡丹餅はあるまい、あるまい。問いましょ、問いましょ。聞きましょ、聞きましょ。宮は。大根。桑名は。蛤、蛤、蛤——蜃気楼。石薬師ほど固うても、性の悪い男のくせに、水口——口癖の仇惚れと、思い大津のその人は。京までか。いや、粟田口。真っ先かけて殿様のお願い叶い、勝ち色の、花のお江戸の真ん中に。こひめは市村、幸先よし。果報は寝て待つ。居ながら歩む膝栗毛。はいしい、道中双六と、口舌さわやか、華やかに、慰みありける景色かな。

詞章と現代語訳

〔歌〕

「これこれごらんぜみさしやんせこれ五十三次ごじふさんつぎをゐながらみせたるだてふうを。〔フシ〕いきな姿すがたのしどけなく。〔ヒヤウシ〕まいちもんじに日本にほんばしより真直まつすぐ京橋中橋きやうばしなかばしおまんがべに

これこれ、ご覧ぜ、見さしゃんせ。これぞ五十三次を、居ながらに見せる伊達風を。粋な姿のしどけなく。真一文字に日本橋より、真っ直ぐに京橋、中橋、お万が紅。

〔藤蔵〕

「べに白粉おしろいつかずしんきしんくの新橋しんばし品川しながはつくるみづかゞみもみぢみよふなら海晏寺かいあんじもくぎよのおとは

紅白粉も手に付かず、辛気辛苦の新橋に、品川作る水鏡。紅葉見ようなら海晏寺、木魚の音は——

「なむあみとうふなむあみとうふ〔合〕ひやうたんあれどさけはなし。さかやはつてもはなはなし。なにをくうやのかほのしははらもしはしはしのたけつゑいりそな夜明よあけがた

南無阿弥豆腐、南無阿弥豆腐。瓢箪あれど酒はなし。酒屋はあっても花はなし。何を食うやの顔の皺、腹も皺々、篠竹の杖がいりそうな夜明け方。

〔藤〕

「おちやまいれ

お茶参れ。

〔音八〕

ちやのきよひよんでわれらがためにはしやかのでしげに品川しながは大仏だいぶつほとけももとは凡夫ぼんぷにておじやれおじやれがひく三味線しやみせんは〔相方〕

茶の木のきよひよんで、われらがためには釈迦の弟子、げに品川の大仏。仏ももとは凡夫にて。おじゃれおじゃれが弾く三味線は。

〔藤〕

「ひくすがゝきはくりはをうつ八文字はちもんじ

弾く清掻は、刳り歯の下駄を運ぶ八文字。

〔ナゲブシ〕

「なれしくるわもはやむかし

馴れた廓も早や昔。

〔藤〕

「それ大名だいみやうのおとほりじやぎやうれつそろへてどいやさかちわかたうやお六尺ろくしやくふむなゝくさは〔相方〕

それ大名のお通りじゃ。行列揃えて、どいやさ。徒歩の若党や、お六尺。踏む七草は。

〔藤〕

あとからしやぐしやぐぉつゞらうま小室こむろぶしをはりあげ

跡からしゃぐしゃぐ、お葛籠馬。小室節を張り上げて。

〔コムロブシ〕

「千雨るともうまかたいやよ

千石取るとも馬方いやよ。

〔音〕

「ほてつぱらめとすゞふりかくるすゞもりふりさけみれば六郷ろくがうわたしばにはやつきこま〔相方〕

ほてっ腹めと鈴振り掛ける鈴ヶ森。振り放け見れば六郷の渡し場に、早や月の駒。

〔藤〕

吾妻あづまくだりにあらねどもその〔相方〕

東下りにあらねども、その。

〔藤〕

「なりひらさんの歌枕うたまくらこまくらたぬ草枕くさまくら出馬でうまのこへにおこされてみやるむかふはあはかづさおきこぐろ拍子びやうしさつさつさ〔相方〕

業平さんの歌枕。小枕持たぬ草枕、出馬の声に起こされて、見やる向こうは安房上総。沖漕ぐ艪拍子、さっさっさ。

〔藤〕

こまもいさめばはいしいだう〔相方〕まづはやざきうめのきや和中わちゆうさんりはいつぷくのたぼこむまに行過ゆきすぎなはふるふるふるかはやくしもみへるぞへ

駒も勇めば、はいしい、どう。まず早咲きに梅の木や、和中散。三里は一服の煙草を呑む間に行き過ぎて。火縄振る振る、古川薬師も見えるぞえ。

〔音〕

「さつてもしやべるはしなものめかの川崎かはさき名物めいぶつちやめしまれなるをんなまごさだめていろるであろ

さても喋るは品もの、めかの、川崎の名物の茶飯。稀なる女馬子、定めて色があるであろう。

〔藤〕

「わたしがおもふそのひと

わたしの思うその人は。

〔音〕

其色そのいろ

その色は。

〔藤〕

「さあ其色そのいろ

さあ、その色は。

〔サハリ〕

「わたしがむね数々かずかずは。かなで〔アタルヲトシ〕いはれぬかながはのいそぐほどがやとつかはとあしももつるゝ藤沢ふぢさはの。〔合〕ひらつかのまも。わすられぬ。

わたしの胸の数々は、仮名で——言われぬ神奈川の。急ぐ程ヶ谷、戸塚はと、足ももつれる藤沢の。平塚の間も、忘られぬ。

〔藤〕

其恋人そのこひびとにをだはらおもひこがるゝむねにわきてながるゝ箱根はこねのゆ

その恋人に小田原と、思い焦がれる胸の火に、沸いて流れる箱根の湯。

〔音〕

「おゝそのゆめぐりのなぐさみにさとをんながむぎつきどきにうたふ小歌こうたのこへさへて

おお、その湯めぐりの慰みに、里の女が麦搗き時に歌う小歌の声冴えて。

〔麦ツキ歌〕

「ゑんなきれるとおもふな女子をなごみづにうきくさねは。きれぬしよんがいな

縁は切れると思うな、女子。水に浮草、根は切れぬ、しょんがいな。

「わしは此町このまちのきばのすゞめきてはないたりなかせ。たりしよんがいな

わしはこの町の軒端の雀。来ては鳴いたり泣かせ、たり、しょんがいな。

「あすはおたちかお名残なごりおしや。せめて仙石せんごくやのまがり。までしよんがいな

明日はお発ちか、お名残惜しや。せめて仙石屋の曲がりまで、しょんがいな。

〔膝〕

はな姿すがたをみしまよりふかくはまりしぬまづのしゆくふじのけぶりのそらにきへゆくゑもしらぬ恋人こひびと

花の姿を、見しま——三島より深くはまった沼津の宿。富士の煙の空に消え、行方も知らぬ恋人は。

〔音〕

なんとかゆゐのはまづたいうつのやまべのとをだんごおあしつくつく

何とか言うの、由比の浜伝い。宇津の山辺の十団子、お銭尽く尽く。

〔藤〕

「つくまりこの

つく手鞠——鞠子の。

〔てまり歌〕

ひとつとやひとよあくればにぎやかでにぎやかでかざたてたるまつかざりまつかざり

一つとや、一夜明ければ賑やかで、賑やかで。飾り立てたる松飾り、松飾り。

ふたつとやふたたばのまつはいるよふでいるよふでさんがいまつは〔藤〕どもへどもへ

二つとや、二葉の松は色ようで、色ようで。三蓋松は——どもへどもへ。

つとやみんなの子供衆こどもしゆはらくあそびらくあそびあな一駒取いちこまとりはねをつくはねをつく

三つとや、みんなの子供衆は楽遊び、楽遊び。穴一、駒取り、羽根をつく、羽根をつく。

つとや吉原女郎衆よしはらぢよらうしゆまりつくてまりつくてまりのうたこそ面白おもしろ面白おもしろ

四つとや、吉原女郎衆が手鞠つく、手鞠つく。手鞠の歌こそ面白や、面白や。

〔音〕

まりつくみぎのかいなをうちかたぐ

手鞠つく右の腕を打ち担ぐ。

〔藤〕

「そりやなんじやへ

そりゃ何じゃえ。

〔音〕

をかべの宿しゆく藤枝ふぢえだのそもじにいのち投島田なげしまだかなやにごゆ赤坂あかさか

岡部の宿や藤枝の、そもじに命、投げ島田。金谷に御油、赤坂。

「〔相方〕

(合方)

〔藤〕

「とひましよとひましよ

問いましょ、問いましょ。

〔音〕

ましよましよ

聞きましょ、聞きましょ。

〔藤〕

女郎ぢよらう

女郎は。

〔音〕

「おじやれ

「おじゃれ」。

〔藤〕

「ひきやくは

飛脚は。

〔音〕

「はやだち

「早立ち」。

〔藤〕

鳴見なるみ

鳴海は。

〔音〕

「しぼり

「絞り」。

〔音〕

ましよましよ

問いましょ、問いましょ。

〔藤〕

ましよましよ

聞きましょ、聞きましょ。

〔音〕

とり

鳥は。

〔藤〕

「ほうわう

「鳳凰」。

〔音〕

はな

花は。

〔藤〕

「みよしの

「み吉野」。

〔音〕

つき

月は。

〔藤〕

更科さらしな

「更科」。

〔音〕

すすき

薄は。

〔藤〕

ぐら

「小ぐら野」。

〔音〕

「ぼたもちはあるまいあるまい

牡丹餅はあるまい、あるまい。

〔藤〕

ましよましよ

問いましょ、問いましょ。

〔音〕

ましよましよ

聞きましょ、聞きましょ。

〔藤〕

「みやは

宮は。

〔音〕

だいこん

「大根」。

〔藤〕

「くは

桑名は。

〔音〕

「はまぐりはまぐりはまぐりしんきらう

「蛤、蛤、蛤」——蜃気楼。

〔藤〕

いしやくしほどかたふても〔ちやうし〕〔歌〕しやうのわるいをとこのくせに。水口みなくちぐせのあだぼれとおも大津おほつ其人そのひと

石薬師ほど固うても、性の悪い男のくせに。水口——口癖の仇惚れと、思い大津のその人は。

〔藤〕

きやうまで

京までか。

〔音〕

「いやあはたぐち

いや、粟田口。

〔藤〕

真先まつさきかけて殿様とのさまのおねがひかなひかついろはなのお江戸えどのまんなか

真っ先かけて殿様のお願い叶い、勝ち色の、花のお江戸の真ん中に。

〔音〕

「こひめは市村いちむらさいさきよし

こひめは市村、幸先よし。

〔藤〕

「くはほうはねてまつ

果報は寝て待つ。

〔音〕

「ゐながらあゆむひざくりげ〔相方〕

居ながら歩む膝栗毛。

〔両人〕

「はいしい道中だうちゆうすごろく口舌くぜつさわやかはなやかになぐさみありけるしきかな。

はいしい、道中双六と、口舌さわやか、華やかに、慰みありける景色かな。

この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『荻江節正本』の本文(著作権消滅)により、章句・合方の記号は原典のまま段の頭や途中に残し、繰り返し記号は読みやすく展開した。繰り返し記号はいずれも直前の語句を繰り返すものとして展開したが、どこまでを一語と見るかはこちらの判断による。「はまぐりはまぐり」に付く記号は「はまぐり」を今ひとつ重ねて三つと読んだ。

原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。

本名題は『恋文字道中双六』(こひのもじだうちゆうすごろく)。目次には『恋文字道中双六(道中双六)』とある。作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。

段の頭の〔藤蔵〕〔音八〕(のちには〔藤〕〔音〕)は演者の受け持ちを、〔両人〕は二人で唄うことを示すものと見て、原典のまま残した(当ライブラリの「与作」と同じ扱い)。〔相方〕とだけある段も原典のまま残した。

東海道の宿の名を恋のことばと地口に詠み込む。品川・川崎・神奈川・程ヶ谷・戸塚・藤沢・平塚・小田原・箱根・三島・沼津・由比・宇津の山・鞠子・岡部・藤枝・島田・金谷・御油・赤坂・鳴海・宮・桑名・石薬師・水口・大津・粟田口が読み取れる。海晏寺は品川の紅葉の名所、茶飯は川崎の名物、十団子は宇津の山の名物、鳴海は絞り染めの名産、「大こん」は尾張の宮重大根、桑名の蛤は「蛤が気を吐いて楼を成す」という蜃気楼の故事による。

「麦ツキ歌」「てまり歌」は俗謡をそのまま取り込んだもの。「二たばの松はいるよふで」は童歌の手鞠唄に同じ文句が見える。「コムロブシ」の「千雨取るとも馬かたいやよ」は小室節の「千石取るとも馬方いやよ」の文句にあたり、「千雨」はその当て字と見られるが、字はそのまま残した。

「和中さんり」の和中散は道中薬の名。距離の三里と灸の三里を掛ける。「ゐながらあゆむひざくりげ」の膝栗毛は、膝を栗毛の馬の代わりにする、すなわち徒歩の意。

原典の翻刻に紛れが一つある。「水口ぐせ」の「口」が片仮名の同形の字で組まれていたので、宿名の水口と見て漢字に改め、ここに断る(当ライブラリの「双面」の誤植と同じ扱い)。

語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「きよひよんで」(経読んでの意か)、「くりは」(刳り歯の下駄か)、「ほてつぱらめ」、「しやべるは品ものめかの」(切り方が定めがたい)、「どもへどもへ」、「こひめは市村」(市村座に掛けるか)。「特たぬ」は「持たぬ」の当て字と見られるが字はそのまま。「たぼこ」も原典の表記のまま。小書きの「ぉ」(ぉつゞら馬)も原典のまま残した。

流儀・稽古本によって仮名遣いや字句に異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。