縁結祝葛葉えんむすびいわうくずのは
荻江節 作詞者・作曲者・初演年不詳

千秋万歳の言祝ぎに始まり、三国一の婿、色直しの小袖、二世三世の固い約束、男結びの縁の綱と、祝言の詞を重ねる。結びは信田の森の葛の葉——安倍保名と葛の葉狐の伝説による歌をそのまま引き、信田の社を頼めと納める。祝儀の席にふさわしい一曲。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の荻江節正本による。
あらすじ
千秋万歳の、千歯子の玉を捧げよう。三国一じゃ、婿になりすまいた——しゃんとして、小袖の色直し。恥ずかしいどうしに居枕、交わす言葉の二世三世。変わるまいぞや、変わらじと、固い約束。男結びに縁の綱。引くに引かれぬ悪性があろうと、悋気など、悋気など。かならず、かならず、寝覚めにも、とのご大事を忘れさんすなえ——とお世話申すも、おふたり様がいとしさのまま、ゆかしさの。「恋しくば尋ね来て見よ、和泉なる信田の森の恨み葛の葉」の——源の家を守らん、守りの神とも。信田の社を、ただ頼め。
詞章と現代語訳
千秋ばん歳のちばこの玉をさゝげん
千秋万歳の、「ちばこ」の玉を捧げよう。
三国一じやむこになりすまいた、しやんたしやんたしやんと小袖の色なをし、はづかしどうしにゐ枕、かはすことばの二世三世、かはるまいぞやかはらじと、かたいやくそく
三国一じゃ、婿になりすまいた。しゃんとして、小袖の色直し。恥ずかしいどうしに居枕、交わす言葉の二世三世。変わるまいぞや、変わらじと、固い約束。
男結びにゑんのつな
男結びに、縁の綱。
ひくに引れぬ悪性があろと、りんきなどりんきなど
引くに引かれぬ悪性があろうと、悋気など、悋気など。
かならずかならずねざめにも、とのご大じをわすれさんすなへと、おせは申もおふたり様がいとしさのまゝゆかしさの
かならず、かならず、寝覚めにも、とのご大事を忘れさんすなえ——とお世話申すも、おふたり様がいとしさのまま、ゆかしさの。
恋しくは尋きてみよいづみなる、しのだの森の恨葛のはなを、源のいへをまもらん守りのかみとも
「恋しくば尋ね来て見よ、和泉なる信田の森の恨み葛の葉」——その葉を。源の家を守らん、守りの神とも。
しの田のやしろをたゞたのめ
信田の社を、ただ頼め。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『荻江節正本』の本文(著作権消滅)により、章句の記号は原典のまま段の頭に残し、繰り返し記号は読みやすく展開した。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
結びは安倍保名と葛の葉狐の伝説による歌「恋しくば尋ね来て見よ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」(浄瑠璃『蘆屋道満大内鑑』で名高い)をそのまま取り込む。原典は「しのだ」「しの田」と書く。
「男結び」は紐の結び方で、ほどけにくいことから固い縁のたとえ。「縁の綱」もその縁語。
「色直し」は婚礼で衣裳を替えること。「二世三世」は夫婦は二世、主従は三世という言いまわしによる。
語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「千歯子の玉」(ちばこの玉。祝いの玉かと見られる)、「ご大じ」(原典は「ねざめにもとのご大じ」。「寝覚めにも殿のご大事を」とも「寝覚めにも、もとのご大事を」とも読めるため、切らずに原典のまま置いた)。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。