槍踊(七変化)やりおどり(しちへんげ)
長唄 本名題『雛祭神路桃』 作詞者・作曲者・初演年不詳
/槍踊(七変化)_宿場の槍と山桜.jpg)
七変化の槍踊の段。「振り出せ、振り出せ」の掛け声から起こし、宿入りの行列となる。咲きそろう山桜、八重一重の散るさまを囃しながら、行列を崩すなと振り手の衆に声をかける。中ほどは槍を振る手のうち、腰のひねりを見せどころにして、恋の掛け橋を渡らばわたれと転じる。結びは車槍・笹槍を打ち振り、時雨に待つ松は常磐と江戸を寿いで、揃う行列の花の宿入りで納める。
あらすじ
振り出せ、振り出せ。宿入りじゃ。おお、さて、飲み込み。山桜、見事、見事に咲いたりな。八重一重、散るは散るは、散り散り来るは。行列崩すな、振り手の衆。「ありゃん」「こりゃん」。拍子を揃えて、お供先。槍を振るなら「ありゃん」。手のうち、合点かの。腰のひねりはさんざ、どう振る。いとし君ら、恋の掛け橋。渡らば渡れ。しととん、とんとう。参ろ。参ろ、花の顔ばせ、かわゆらしいじゃないかいの。よい、よい、よい、よい、よいやさ。結び初めにし三重の帯。きりり、しゃんしゃん。しゃん、くるくるくる、車槍、さんざ笹槍、時雨松。時雨松。松は常磐のお江戸、見初めた。揃う行列、花の宿入り。
詞章と現代語訳
ふりだせふりだせ
振り出せ、振り出せ。
宿入じゃ
「宿入りじゃ」。
おゝ扨のみ込〔ハル〕山ざくら〔合〕見事々々に咲たりな。やゑひとえちるはちるは散々々くるは〔合〕行列くづすなふりての衆〔詞〕『ありやん』〔詞〕『こりやん』〔合〕ひやうしをそろへてお供さき
「おお、さて、飲み込み」。山桜、見事、見事に咲いたりな。八重一重、散るは散るは、散り散り来るは。行列崩すな、振り手の衆。「ありゃん」「こりゃん」。拍子を揃えて、お供先。
やりをふるなら〔詞〕『ありやん』手のうちがてんかの。こしのひねりはさんざどふふるいとし君ら恋のかけはし〔合〕渡らばわたれ。しとゝんとんとう。まいろ
槍を振るなら「ありゃん」。手のうち、合点かの。腰のひねりはさんざ、どう振る。いとし君ら、恋の掛け橋。渡らば渡れ。しととん、とんとう。参ろ。
まいろ花の顔ばせかはゆらしいじや。ないかいの
参ろ。花の顔ばせ、かわゆらしいじゃ、ないかいの。
よいよいよいよいよいやさ。むすびそめにしみえの帯。きりゝしやんしやん
よい、よい、よい、よい、よいやさ。結び初めにし三重の帯。きりり、しゃんしゃん。
しやんくるくるくるくるまやりさんざ笹鎗しぐれまつ
しゃん、くるくるくる、車槍。さんざ笹槍、時雨松。
しぐれまつ松はときはのお江戸見そめた揃ふ行列花の宿入
時雨松。松は常磐のお江戸、見初めた。揃う行列、花の宿入り。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅)により、章句・合方の記号は原典のまま段の頭や途中に残し、繰り返し記号は読みやすく展開した。繰り返し記号はいずれも直前の語句を繰り返すものとして展開したが、どこまでを一語と見るかはこちらの判断による。
原典は総かな書きの部分が多いため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
本名題は『雛祭神路桃』(ひなまつりかみじのもも)。七変化のうちの一曲で、ほかに傾城・官女・山賎・布曝・春駒・杜若・槍踊がある。
「槍踊」は毛槍を振る奴の所作を踊りにしたもの。「宿入り」は行列が宿場に入ること。
「くるま槍」「笹槍」は槍の形の名。ここは車のように回す振り方と、笹のように細い槍に掛けてある。
語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「おゝ扨のみ込」、「ありやん」「こりやん」(原典は『 』でくくる囃子詞)、「みえの帯」(三重の帯と見たが断じきれない)、「しととんとんとう」。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。