恨うらみ
作詞者・作曲者・初演年不詳 目次の題名「うらみ」

肌寒い秋の里、砧の音と機織りの音を聞きながら、恋しい人への恨みを訴える小品。「こちよれなびけ」と招く薄の穂に思いを託し、涙を見せて「叩かしゃんせ、みんなわたしが悪いにしても」とすねてみせる、口説きの情がこもる。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の『歌撰集』による。
あらすじ
肌寒く、砧を打つという、機を織るという里に来て——問うものは蟋蟀ばかり。わたしの思いは、ますます増す穂の薄。こちらへ寄れ、なびけ、なびけ、こちらへ寄れ。露がはらはらと落ちるように、恨み涙をこぼしても、あなたは覚えがないという。抓りなさんせ、叩きなさんせ。みんなわたしが悪いにしても——そうはせぬものじゃいな、そうはせぬものじゃいな。
詞章と現代語訳
はださむみ砧うつてふ機をる里にきて、とふものはきりぎりす、わしがおもひはます穂のすゝき、こちよれなびけなびけこちよれ
肌寒く、砧を打つという、機を織るという里に来て——問うものは蟋蟀ばかり。わたしの思いは、ますます増す穂の薄。こちらへ寄れ、なびけ、なびけ、こちらへ寄れ。
露はらはらと恨み涙か、わしやおばへないつめらしやんせたゝかしやんせ、みんなわたしがわるいにしても、そふはせぬものじやいなそふはせぬものじやいな
露がはらはらと落ちるように、恨み涙をこぼしても——あなたは覚えがないという。抓りなさんせ、叩きなさんせ。みんなわたしが悪いにしても、そうはせぬものじゃいな、そうはせぬものじゃいな。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅)により、繰り返し記号は読みやすく展開した。原典は目次の題名を「うらみ」とする。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
「砧打つ」は秋の夜に布を打つこと、「機織る」とともに秋の里の音として詠まれる。ここでは「打つ」「叩く」の縁で、結びの「叩かしゃんせ」へ響く。
「ます穂の薄」は穂の増す薄に、思いの「増す」を掛ける。「こちよれなびけ」は薄の穂が風になびくさまに、心を寄せよと呼びかける意を重ねたもの。
「露はらはらと」は涙の縁語。「つめらしゃんせ」は抓りなさいの意。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。