藤舎の紋 藤舎名玄TOSHA MEIGEN ― 詞章ライブラリーへ戻る
長唄

布曝(七変化)ぬのさらし(しちへんげ)

長唄  本名題『雛祭神路桃』  作詞者・作曲者・初演年不詳

布曝(七変化) 川に晒す白布
川に晒す白布

七変化の布曝の段。「小賢しや愚人ばら」と大手を広げて待ち構える見得から起こし、寄手の大勢と渡り合う立廻りとなる。鋼を鳴らして飛び出す相手をひらりと外し、ひらひら、ひらりと身をかわす——そこから布曝しの所作に移り、四季折々をさまざまにと繰り返して、今見るごとく覚えたのは神慮の威徳であると納める。

あらすじ

小賢しや、愚人ばら。我をあざむく者あらば、こんな微塵になさんとて、大手を広げて待ちいたり。その時、寄手の大勢は、たとえいかなる天魔鬼神の勢いありとも。いでいで、からめ取らんとて、鋼を鳴らして飛んで出れば、ひらりと外し、ひらひら、ひらひら、ひらり、ひらり、ひらりと。四季折々をさまざまに。さまざまに。今見るごとく覚しは、これぞ神慮の威徳なり。

詞章と現代語訳

〔人ヨセ〕

しやこざかしや愚人ばら〔ハルノリ〕〔地〕我を。あざむく者あらば〔合〕こんな。みぢんになさんとて。大手をひろげて待ゐたり

小賢しや、愚人ばら。我をあざむく者あらば、こんな微塵になさんとて、大手を広げて待ちいたり。

其時寄手の大勢は〔合〕たとへいかなる。天魔きじんの勢ひ有とも

その時、寄手の大勢は、たとえいかなる天魔鬼神の勢いありとも——

いでいでからめ取んとてはがねを嗚して。飛で出ればひらりと外しひらひらひらひらひらりひらりひらりと

いでいで、からめ取らんとて、鋼を鳴らして飛んで出れば、ひらりと外し、ひらひら、ひらひら、ひらり、ひらり、ひらりと。

〔是ヨり布ザラシ〕

四き折々をさまざまに

四季折々をさまざまに。

さまざまに

さまざまに。

今みるごとく覚しは是ぞしん慮のいとくなり

今見るごとく覚しは、これぞ神慮の威徳なり。

この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅)により、章句・合方の記号は原典のまま段の頭や途中に残し、繰り返し記号は読みやすく展開した。繰り返し記号はいずれも直前の語句を繰り返すものとして展開したが、どこまでを一語と見るかはこちらの判断による。

原典は総かな書きの部分が多いため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。

本名題は『雛祭神路桃』(ひなまつりかみじのもも)。七変化のうちの一曲で、ほかに傾城・官女・山賎・布曝・春駒・杜若・槍踊がある。

「布曝」は布を長く垂らして左右に振り回す所作事。晒女(さらしめ)の所作から出たもので、舞踊の見せ場になる。原典の〔是ヨり布ザラシ〕はその始まりを示す。

「はがねを嗚して」は原典のままで、「鳴らして」の意と見られる。刀を抜き合わせる音を言う。

語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「しん慮のいとく」(神慮の威徳と見たが、真慮とも読める)。

作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。