四季三葉草しきさんばそう
清元 紫雲庵 述 作曲者・初演年不詳

三番叟の祝言と、四季の花尽くしを合わせた祝儀曲。「とうとうたらりたらり」の翁の唱えごとで起こし、千代まで変わらぬ松の緑、翁草、素袍の袖、千載の梅、鶯の初音、竹の一節と、能『翁』の景物を四季の草に写して「四季の三葉草」と題する。三下りからは花尽くし——桃は初心に柳はませた、海棠、山吹、若楓、藤、桜狩、卯の花、牡丹、芍薬、姫百合、葉桜、梨の花、石竹、菖蒲。「元の座敷へおもおもとお直り候え」と座敷の一枝を勧め合う趣向をはさみ、二上りは女郎花、小萩、尾花、百夜草。結びは時雨の紅葉、寒菊、水仙、枇杷の花、山茶花と冬の花を連ね、千代に八千代に玉椿、今も栄えて清元の納まる家こそ祝しける、と納める。三番叟物でありながら人が舞う所作を描かず、花の名だけで四季をめぐる、お茶席・祝儀の席に向く一曲。
あらすじ
とうとうたらりたらり、あがりららりとう。所千代まで変わらぬ色の、緑立つ春、松の色。そが菊の名も翁草。そよや、いずくの花の滝。れいれいと落ちて水の月。素袍の袖も千載の、梅が香慕う鶯も、初音ゆかしき我が宿の、竹も直なるひと節に、写して四季の三葉草。立ち舞う姿いと栄えて。桃は初心に柳はませた。風のもつれに解けかかる、こちらは海棠、蕾のままよ。うら山吹に若楓、藤衣。主とても、かざす袂の桜狩、その盃の数よりも。おおさえ、おおさえ、悦びありや、ありや。幸い心にまかせたり。千早振る神の昔にあらなくに、卯の花垣根、白波の渚の砂、さくさくとして、旦の花の富貴草。女子心は芍薬に、思うたばかり姫百合の、まだ葉桜も染めぬのに。そりゃあんまりな梨の花。気も石竹に軒の妻。菖蒲も知らで折り添えて、いつか手活けの床の花。元の座敷へおもおもとお直り候え。ようがましや、さあらば一枝まいらしょう、そなたこそ。君が由縁の色見草、映ろう水に杜若。池の汀に鶴亀の縁、うれしき踊り花。女郎花、宵の約束、小萩がそばで。尾花招けば糸薄。通う心の百夜草。こちゃこちゃ真実いとしらし、そうじゃいな。時雨の紅葉、寒菊や、水仙清き枇杷の花。花の吹雪のさらさらさっと山茶花や。恵みに花の功しは、千代に八千代に玉椿。眺め尽くせぬ花の時。今も栄えて清元の、納まる家こそ祝しける。
詞章と現代語訳
とうとうたらりたらりあがりらゝりとう〔合〕所千代まで変らぬ色の緑たつ春松の色、そが菊の名も翁草そよやいづくの〔合〕花の瀧〔合〕れいれいと落ちて水の月、素袍の袖も千載の梅が香慕ふ鶯も、初音床しき我が宿の竹も直なる一ト節に〔合〕うつして四季の三葉草〔合〕
とうとうたらりたらり、あがりららりとう。所千代まで変わらぬ色の、緑立つ春、松の色。そが菊の名も翁草。そよや、いずくの花の滝。れいれいと落ちて水の月。素袍の袖も千載の、梅が香慕う鶯も、初音ゆかしき我が宿の、竹も直なるひと節に、写して四季の三葉草。
立舞ふ姿いと栄えて〔合〕
立ち舞う姿いと栄えて。
『桃は初心に柳はませた〔合〕
桃は初心に柳はませた。
風のもつれに〔合〕解かゝるこちは海棠莟の儘よ、うら山吹に若楓藤衣ぬしとても、かざす袂の〔合〕桜狩その盃の数よりも〔合〕
風のもつれに解けかかる、こちらは海棠、蕾のままよ。うら山吹に若楓、藤衣。主とても、かざす袂の桜狩、その盃の数よりも。
おゝさへおゝさへ悦ありやありや、幸心にまかせたり
おおさえ、おおさえ、悦びありや、ありや。幸い心にまかせたり。
千早振神の昔にあらなくに〔合〕卯の花垣根白浪の、渚の砂さくさくとして〔合〕旦の花の富貴草
千早振る神の昔にあらなくに、卯の花垣根、白波の渚の砂、さくさくとして、旦の花の富貴草。
女子心は芍薬に、思ふたばかり姫百合の〔合〕まだ葉桜も染ぬのに、そりやあんまりな梨の花、気も石竹に軒の妻〔合〕菖蒲も知らで折添へて、いつか手活の床の花〔合〕
女子心は芍薬に、思うたばかり姫百合の、まだ葉桜も染めぬのに。そりゃあんまりな梨の花。気も石竹に軒の妻。菖蒲も知らで折り添えて、いつか手活けの床の花。
元の座敷へおもおもとお直り候へ、ようがましやさあらば一枝まゐらせうそなたこそ〔合〕
元の座敷へおもおもとお直り候え。ようがましや、さあらば一枝まいらしょう、そなたこそ。
君が由縁の色見草、うつらふ水に杜若、池の汀に鶴亀の縁嬉き踊花
君が由縁の色見草、映ろう水に杜若。池の汀に鶴亀の縁、うれしき踊り花。
『女郎花宵の約束小萩が傍で〔合〕尾花招けば糸芒、通ふ心の百夜草、こちやこちや真実いとしらし、さうぢやいな
女郎花、宵の約束、小萩がそばで。尾花招けば糸薄。通う心の百夜草。こちゃこちゃ真実いとしらし、そうじゃいな。
時雨の紅葉寒菊や、水仙清き枇杷の花、花の吹雪のさらさらさつと山茶花や、恵に花のいさをしは、千代に八千代に玉椿、詠め尽せぬ花の時、今も栄へて清元の、納まる家こそ祝しける。
時雨の紅葉、寒菊や、水仙清き枇杷の花。花の吹雪のさらさらさっと山茶花や。恵みに花の功しは、千代に八千代に玉椿。眺め尽くせぬ花の時。今も栄えて清元の、納まる家こそ祝しける。
詞章は声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第三編 清元集(明治四十二年)の校訂本文(著作権消滅)による。繰り返し記号は読みやすく展開し、合方の指示は省いた。繰り返し記号はいずれも直前の語句を繰り返すものとして展開したが、どこまでを一語と見るかはこちらの判断による。
紫雲庵 述。作曲者・初演年は原典に記載がない。
「とうとうたらりたらり」は能『翁』の冒頭の唱えごと。「所千代まで」「そよや」「おおさえ、おおさえ、悦びありや」も『翁』の詞章による。三番叟物でありながら、舞う所作ではなく四季の花に写して綴るのが、この曲の趣向である。
曲名の「三葉草」は三つ葉の草。「三番叟」に掛けたもので、中ほどの「うつして四季の三葉草」がその種明かしにあたる。
花尽くしは春から冬へ順にめぐる。桃・柳・海棠・山吹・若楓・藤・桜(春)、卯の花・牡丹(富貴草)・芍薬・姫百合・葉桜・梨・石竹・菖蒲・杜若(夏)、女郎花・萩・尾花(秋)、紅葉・寒菊・水仙・枇杷・山茶花・玉椿(冬)。
「元の座敷へおもおもとお直り候へ」以下は、花を活けて勧め合う座敷のやりとり。「手活けの床の花」は自分で活けた床の花で、思う人を我がものにするたとえにも使う。
「百夜草」は深草少将の百夜通いによる語で、通う心に掛ける。「色見草」は花の異名。
結びの「今も栄へて清元の、納まる家こそ祝しける」は、流儀の名を詠み込む家元の祝儀曲の型。梅の春・北州と同じ納めである。
語義の定めがたい語は推測で埋めず原典のまま残した。「旦の花」(朝の花か、元旦の花か)、「ようがましや」、「気も石竹に軒の妻」(石竹に「せきちく」と「関」を掛けるか)。「そが菊」は蘇我とも、そこの菊とも読めるので切らずに置いた。
流儀・稽古本によって仮名遣いや字句に異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。