長唄
便りの翅たよりのつばさ
作詞者・作曲者・初演年不詳 目次の題名「便りのつばさ」、本文の題名「たよりの翅」

白無垢の姿を雪夜の白鷺に見立てた、ごく短い恋の小品。賤の身と鷺の心を隣どうしと言い、冷えた夜のもの思いを恥じらいに納める。曲名の「翅」は文を運ぶ鳥の翼。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の『歌撰集』による。当ライブラリでいちばん短い曲である。
あらすじ
嬉しさの積もる白無垢は、雪の積もるように夜も更けわたる姿。賤の身と白鷺の心とは隣どうし——冷たい夜、冷えた仲にもの思えば、ほんにしみじみ、わたしは恥ずかしい。
詞章と現代語訳
嬉しさつもる白無垢は、夜もふけわたる姿かな
嬉しさの積もる白無垢は、雪の積もるように、夜も更けわたる姿であることよ。
賤が身と鷺のこゝろをとなりどし、つめたい中にものおもふ、ほんにしみじみわしやはづかし
賤の身と白鷺の心とは隣どうし。冷たい夜、冷えた仲にもの思えば、ほんにしみじみ、わたしは恥ずかしい。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅)による。原典は目次の題名を「便りのつばさ」、本文の題名を「たよりの翅」とする。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
曲名の「翅」は文を運ぶ鳥の翼、たよりの使いの見立て。本文の白鷺と響き合う。
「嬉しさつもる」は雪の「積もる」との掛詞。白無垢の白を、夜更けの雪と白鷺に重ねる趣向で、鷺娘に連なる白い見立てである。
「つめたい中」は冷えた夜と、よそよそしい仲との掛詞と見られる。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。