うすもみじうすもみじ
荻江節 本文の題名「うすもみ地」 作詞者・作曲者・初演年不詳

身を捨てて里を離れ、山の奥に世を送る——変わり果てた世のならいを、色の変わる薄紅葉に託し、西の空の弥陀の誓いに頼みを寄せる、無常観のこもった小品。恋の曲の多い荻江節のなかでは珍しく、遁世のおもむきが濃い。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の荻江節正本による。
あらすじ
身を捨てて、里を離れて山の奥。会う色も変わる薄紅葉が、ちりぢりばらばらと散るように落ちる涙——身を知る雨か。変わり果ててしまった世のならい。住む甲斐もない憂き命、頼みをかけるのは弥陀の誓い、西の空。
詞章と現代語訳
身をすつる
身を捨てる——。
さとをはなれて山のおく
里を離れて、山の奥。
くわいろ
「くわいろ」——会う色も。
かはるうすもみぢ、ちりぢり
変わる薄紅葉が、ちりぢり。
ばらばら落るなみだや身をしるあめの、かはりはてぬる世のならひ
ばらばらと落ちる涙は、身を知る雨か。変わり果ててしまった、世のならい。
すむかひもなきうき命、たのむちかひや西のそら
住む甲斐もない憂き命。頼みをかけるのは弥陀の誓い、西の空。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『荻江節正本』の本文(著作権消滅)により、章句の記号は原典のまま段の頭に残し、繰り返し記号は読みやすく展開した。原典の本文の題名は「うすもみ地」。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
「薄紅葉」は色づきはじめの淡い紅葉。人の心の変わりやすさに重ねる。
「身を知る雨」は『伊勢物語』の歌「かずかずに思ひ思はず問ひがたみ身をしる雨は降りぞまされる」による、わが身のほどを知らせる雨。ここでは落つる涙にかける。
「西の空」は西方浄土。「たのむ誓ひ」は阿弥陀仏の本願で、遁世の身の頼みとする。
「くわいろ」は「会ふ色」か「灰色」か、かな書きのため定めがたく、推測で埋めず原典のまま残した。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。