うきはしうきはし
作詞者・作曲者・初演年不詳

宵ごとに枕の定めどころもなく、月は袂にうつろう——思い切れと言われた夜も結ばれぬ夢、情け混じりの言葉の端に迷うわが身を嘆き、急ぐ涙を人には見せず、頼むまい夢の浮橋、と納める閨怨の小品。他の曲と異なり『徳川文芸類聚』所収の『歌撰集』による。
あらすじ
宵ごと宵ごとに、枕を定めるすべもなく、月は袂にうつろう——その人を。思い切れと言われて寝た夜半も、結ばれぬ夢。なまじ情け混じりの言葉の端に迷う、わが身をいかにしよう。心で心で、心が恨めしい。急ぐ涙を人には見せず、よしや頼むまい、夢の浮橋。
詞章と現代語訳
よひよひに枕さだめんかたもなく、月はたもとにうつろふ人を
宵ごと宵ごとに、枕を定めるすべもなく、月は袂にうつろう——その人を。
おもひきろとてねし夜半も、むすばぬゆめの中々に、なさけまじりのことばのはしに、まよふわが身をいかにせん、こゝろでこゝろでこゝろうらめしや、いそぐ涙をひとには見ずん、よしやたのむなゆめのうきはし
思い切れと言われて寝た夜半も、結ばれぬ夢。なまじ情け混じりの言葉の端に迷う、わが身をいかにしよう。心で心で、心が恨めしい。急ぐ涙を人には見せず——よしや、頼むまい、夢の浮橋。
この曲は詞章の出典が他と異なる。『徳川文芸類聚』第十 俗曲下所収『歌撰集』の本文(著作権消滅)により、繰り返し記号は読みやすく展開し、合方の指示は省いた。
原典は総かな書きのため、読みやすさを考えて漢字を当てた。ふりがなが原典の仮名である。
「夢の浮橋」は『源氏物語』最終帖の巻名で、はかない夢のたとえ。曲名にあたる。
「月は袂にうつろふ」は、涙にぬれた袂に月が映るさま。「うつろふ」には心の移り変わる意も掛かる。
「結ばぬ夢」は眠りが浅く夢も結ばないこと。「中々に」はなまじっか、かえっての意。
「人には見ずん」は「見せず」の意と読んだ。原典のままの表記である。
作詞者・作曲者・初演年は原典に記載がない。流儀・稽古本によって仮名遣いや字句にも異同があるため、演奏の際はお手元の稽古本と照合されたい。